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【Vol.32】元Amazonのキーマンが語る、リノベるのデジタル戦略(後編)
前回に引き続き、今回はリノベる社外取締役を務める塚本信二 氏のインタビューをお送りします。塚本氏は、アマゾンジャパンにて広告事業の本格立ち上げを指揮し、現在は米国DUFL社(海外出張者向けのラゲージパッキング・デリバリーサービス)の共同創業者として手腕を振るうなど、一貫してO2O(オンライン・トゥ・オフライン)ビジネスの最前線に身を置き続けている第一人者。その目は、リノベるの現在と未来をどう捉えているのかーー。聞き手は引き続き、代表の山下です。
塚本信二 Shinji Tsukamoto
三井物産を経て、日本マイクロソフト等グローバル企業でのビジネスマネジメントに従事。その後アマゾンジャパンにて、アマゾンアドバタイジング統括事業本部長兼日本代表に就任。2015年、米国にてDUFL社を創業。共同創業者として経営の舵を取るとともに、2017年よりリノベる株式会社 社外取締役に。デジタル企業における事業マネジメント・組織構築の経験やO2Oの知見をもとに、リノベるのデジタル・トランスフォーメーションを後押ししている。
この2年で、リノベるは第二創業期のスタートラインに立った。
山下
改めて振り返ると、塚本さんとこうしてお付き合いするようになってまだ2年半なんですよね。本当に“濃い”時間をご一緒しているなと実感しています。初めのうちは、経営の先輩としてビジネスや組織づくりについて定期的にご相談の機会をいただいていましたが、当時のリノベるにはどんな印象をお持ちでしたか?
塚本
「よくここまでやってきたな」というのが正直な印象でしたね。当時のリノベるは、ビジネスオペレーションや組織運営の基本的な仕組みが整っているとは、お世辞にも言えない状態。「それでよくぞここまでの成長を実現してこれたな」と、純粋に驚かされました。そして、「ここに“仕組み”を入れるとどこまで成長し、飛躍するんだろう」と。
山下
お恥ずかしい話ですが、本当にそのとおりでした。もともと一人で起業して、とにかく目の前のお客様だけを見てがむしゃらにやってきて。当時の自分には、ビジネスオペレーションという概念すらなかったと思います。塚本さんに「今期と今後3年間のプライオリティは何?」と質問されたときも、すっと答えが出てこなかったんですよね。組織づくりに関しても、「On Boarding」や「1on1」などビジネスの教科書に当然のごとくあることが、全く理解できていなかった。もちろんやらなきゃという意識はあるものの、なぜやる必要があるのかは深く理解できていない状態。その必要性や意味を、塚本さんにいちから教えていただいたという実感が強くあります。
塚本
当時から考えると、この数年でリノベるは企業として見違えるほど整ってきたなと思います。ビジネスオペレーションでは、マイルストーン、レビューの仕組み、戦略・戦術レベルでのPlanB・PlanC。もちろんまだまだ練り上げていく最中ではあるものの、ずいぶん進んできていると感じます。ビジネスとしても組織としても「どうあるべきか」を考え続けてきて、いよいよスタートラインに来たのかなと。
山下
たしかに。「ベンチャーだから」という甘えを一切排し、次のステージへと進むにふさわしい企業となるべく、ここから改めてスタートを切るんだという意識は自分の中にも強くあります。「お客様に、より安心して選んでいただける企業になる」という視点で考えたとき、この数年の間に、東急電鉄・三井物産・静岡銀行と、日本を代表する企業に資本提携のご縁をいただきました。組織についても同様にレベルアップをしていかなくてはいけない。
塚本
これからは、さらなる成長を遂げ、より永続可能性の高い企業になるためのチャレンジとも言えるでしょう。そういう意味でも、先ほど話題に上ったようなさまざまなフレームワークが組織に根づきはじめているのは、とても良い傾向ですね。僕自身「フレームワークが厳しさをつくる」という考え方がすごく好きなのですが、リノベるの組織もそうなりつつある。マネジメント層があれこれ指示を出すのではなく、フレームワークが指示を出し、物事を動かしていく。これから組織規模が拡大していったときに、これが非常に大きな優位性になってくると思います。
リノベるのデジタル戦略、3つの視点。
山下
もともと塚本さんは住宅・建築領域とは異なる分野に身を置かれていたわけですが、リノベーションに対してはどんなイメージをお持ちですか?
塚本
社会的に大きなインパクトをもたらしうるものだと感じています。実は僕も、リノベーションと全く縁がなかったわけでもなくて。以前サンフランシスコで会社を立ち上げたときに、キャンディ工場の跡地をフルリノベーションしてオフィスを作ったんです。それに海外の友人知人の自宅をみると、リノベーションされてどれ一つとして似たものがない。それぞれに、住まい手の思いが詰まった空間になっている。日本の住宅事情との違いは、いち消費者として常々感じていました。
そして今、日本の住まいのあり方が大きく変わりうる潮目に、当事者として関われることに、一人のビジネスパーソンとしてロマンを感じてもいます。伝統ある業界をデジタライゼーションを通じて変革し、これまで消費者に届けられなかった新しい暮らしを提供する。非常にダイナミックなチャレンジだなと。
山下
デジタライゼーションというキーワードが出ましたが、リノベるのこれからについて、いま塚本さんの頭のなかにあるイメージとは? 日頃から議論を重ねていますが、改めてお聞きしてみたいです。
塚本
まだきちんと整理されたアウトプットではないのですが、軸としては3つあると考えています。
1つは、お客様に対して、ショールームに足を運んでいただくまでの体験価値を最大化するという観点。現状では数回お越しいただき、スタッフとのやり取りのなかでお住まいのイメージを固めていく流れになっていますが、これを、ショールームにいらっしゃるまでの間に非対面で進められるようにする。
イメージとしては、自動車の購買体験の変化がいい例です。かつてはショールームに何度も出向いて購入していたものが、今では車種・スペック・カラーリング・オプションなど、WEBサイトの情報をもとに意思決定できるようになり、ショールームに行く回数は1〜2回で済むようになっている。これに近いようなことが、リノベるのサービスでも実現できるのではないかと思っています。主役はお客様なので、お客様にとって一番有益でストレスフリーなフローを作ることが大切ですね。
山下
時間と場所の制約をこえて、住まいづくりのプロセスを楽しむことができるようにする、という視点ですね。これは私が「リノベる。」というサービスを構想した当初からの悲願でもあります。
塚本
2つ目は、設計・施工の効率化。すでに施工管理支援サービス「nekonote」や、資材配送支援サービス「ジャスくる」等を構想・スタートしていますが、この流れをより加速していく。これが結果として、高いクオリティの住まいをロジカルな価格で提供するという競争力にも直結してきます。
そして3つ目が、ハードウェアとしての、住まいそのものの進化。いわゆる「スマートホーム化」です。現時点では、必要としている一部のお客様に向けたサービスとして提供していくことにはなるでしょうが、未来に向けた大きな流れとしてスマートホーム化は不可避のものであり、それを“既存住宅”で実現することにこそ意味があると考えています。既存及びこれから生まれるスマートホーム機能の一部はコモディティとなり、その他は消滅もしくは一部コアユーザーのサービスとなると思っています。
この3つの視点からの動きをサービス価値の向上にうまく落とし込んでいくことで、国内のお客様により良い体験をしていただけるようにする。そしてさらに、海外に向けた展開も進めていくことが、大きな方向性になっていくと思います。
住宅・建築産業は、デジタル化に向いている。
塚本
逆に問いたいのが、2つ目にあげた効率化の話。この実現可能性について、山下さんはどう見ていますか?
山下
僕は、非常にポジティブです。設計士や職人さんたちの手仕事がベースにある産業だからか、「デジタル化で自分たちの仕事がなくなるのでは?」といった不安の声をよく耳にするのですが、僕は「むしろ逆」だと思っています。
たとえば今、施工現場で必ず発生しているのが資材の搬入を待つ時間。この時間って明らかに無駄ですよね。これが配送の最適化によってタイムリーに届くようになれば、そのぶんの時間をモノづくりのほうに使うことができるじゃないですか。
デジタライゼーションによる効率化というのは、決して人から仕事を奪うことではない。むしろ人の手がいらない部分と、人の手でしか成しえない部分とを切り分けることであり、人が本当に集中すべきところに集中できるようにするための環境づくりなんですよね。だから、手仕事ならではのぬくもりであったり、技術や感性の部分をむしろより追求できるようになるはずですし、少なくともリノベるが志向する効率化とは、人の力を最大化するためのものだと考えています。
さらに言うならば、この業界はすでに何度となくテクノロジーによる変化を経験しているんですよね。手描きの図面からCADに変わったり、工具が電動化したり……。この先の変化に関しても、むしろスムーズに進んでいくんじゃないかなと思っています。
塚本
全く同感です。モノづくりもそうだし、お客様との対面での接点についてもそう。人のクオリティというのは、絶対にごまかせない。だからこそ、AIを含めたデジタライゼーションによる業務効率化で「人のリソースを空ける」ことが重要になってきます。その空いた時間で、トレーニングをしたり組織強化を続けていくことが、サービスクオリティを高めるための唯一の手段だからです。むしろデジタライゼーションに本気で取り組んでいる企業であればあるほど、こうしたアナログな打ち手の重要性について、本質的な理解が進んでいると思います。余談ですが、私共が米国で手掛けるDUFLのサービスも、出張の荷造りや帰宅してから洗濯・片付けの時間を、家族や大切な人との時間、趣味の時間に使って頂きたいという理念があります。時間は有限ですからね。
リノベる の、新たな一手。
山下
「リノベる。ショールームでのAmazon Echoシリーズ タッチ&トライ 体験コーナー」の取り組みも、いよいよスタートしましたね。
リノベーションによるスマートホーム化は、ここ数年、リノベるが特に力を注いでいるテーマの一つで、僕自身も自宅で国内外のデバイスを買っては試し、実験してきました。そのなかで課題を感じていたのが、デバイスの機能・性能以上に、その購買体験だったんです。
たとえばスマートスピーカーも、実際に体験しようとすると家電量販店に出向いて見てみるくらいしか手段がない。ただ、そこでスマートホーム家電の操作はできない場合がほとんどで、テクノロジーが暮らしのなかに溶け込んだときの本質的な価値体験からは程遠いんです。
そういう意味でも、今回「リノベる。」のショールームをスマートホーム化し、そこでいわゆる“未来の暮らし”を体験していただけるようになるということには、非常に大きな意義があると思っています。
塚本
お客様がショールームにいらっしゃるまでの体験価値を高めるという意味で、極めて重要な動きだと感じています。第二創業期の第一歩としては、いいスタートが切れたのではないかな。
山下
そうですね。とはいえ、あくまでも第一歩。お客様にも、各パートナー企業の皆さまにも、リノベるの今後にさらなる期待をしていただけるような動きを継続していきましょう!