【Vol.105】スポーツ複合施設「SWEET AS」竣工から5年。地域に育まれ、生まれた新しい景色

2025.09.25
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 「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」のミッションのもと、リノベるでは、個人・法人・産業支援と3つの領域でリノベーションプラットフォームを構築し、「課題を価値に」変えるリノベーションを提供しています。

その一つが、法人向けの「CREリノベーションプラットフォーム」です。そこでは「まちの新しい価値になる」という事業ビジョンのもと、不動産の利活用を推進。事業企画、設計、施工、運営までワンストップでマネジメントする「都市創造事業」を展開しています。

これまで進めてきた様々なプロジェクトの一つが、山口県長門市にある「SWEET AS(スイート アズ)」です。2020年当時築45年だった鉄工所を、スポーツ施設やカフェレストランなどを備えた複合施設にコンバージョンした再生事業で、2020年9月のオープンから今年で5年を迎えました。

SWEET AS | リノべる 都市創造事業

この5年でSWEET ASが地域や地域住民にとってどのような存在になっているのか、「まちの新しい価値」になっているのか、この施設から新たに生まれた価値を探るべく、SWEET ASオープン当時の運営責任者を務めた、7人制女子ラグビーチーム「ながとブルーエンジェルス」ハイパフォーマンスディレクターの村杉徐司氏、リノベる都市創造事業部でSWEET ASのプロジェクトを担当した小谷 彩華、都市創造事業部本部長の西郷俊彦に話を聞きました。


▲リノベるは2025年8月に足を運び、現在の様子を取材・撮影した。以下キャプションでは、当日の様子をエピソードとともに紹介する。


▲3名の取材はオンラインで行われた。左上から村杉氏、右上が西郷、左下が小谷。

■築45年の元鉄工所を、選手や地域の人が集う複合施設に

―まずはSWEET ASが誕生した背景と概要を教えてください。

村杉:2017~2018年頃から、山口県長門市を拠点にした7人制女子ラグビーチーム「ながとブルーエンジェルス」が本格的に活動を始めました。僕自身もかつてニュージーランドでプレーしていましたが、現地のチームには、フィールドの前にクラブハウスと呼ばれる施設があり、レストランやカフェ、バー、子どもの遊び場などが併設されていて、試合や練習後には地域の人たちが集まり、一緒に食べて飲んで交流する文化がありました。

 ながとブルーエンジェルスにもそんな施設が必要だということで、メインスポンサーであるヤマネ鉄工建設の山根社長とニュージーランドへ視察に行ったのがSWEET AS誕生のきっかけでした。

 市内で候補地を探しましたがなかなか見つからず、最終的に目をつけたのが、チームの室内練習場やジムに隣接する、ヤマネ鉄工建設の旧鉄工所でした。当時は資材置き場として使われていましたが、とても広く、時折チームでバーベキューをするような、なじみのある場所でもありました。ここなら地域にも開かれた拠点になると考え、SWEET ASを造ることになりました。

▲7人制女子ラグビーチーム、ながとブルーエンジェルス ハイパフォーマンスディレクターの村杉徐司氏。東京都出身。ながとブルーエンジェルスに参画し、長門市に移住。

小谷:当時築45年・約3100㎡の元鉄工所を、スポーツコートやカフェレストラン、バーを備えた複合施設にしたいという相談を山根社長と村杉さんから受けたことが、SWEET ASプロジェクトの始まりでした。選手やコーチ、地域の人たちが集い、コミュニティが築ける場を目指して組み立てていきました。また、チームには海外から来ている選手も多く、そんな選手たちも安心して過ごせる場所にしたいという要望も当初からありました。

 さらに調べていく中で、長門市には高校以降の教育機関がなく、成長して進学するタイミングで地元を去る若者が多いということも見えてきました。そうした環境にあって、地元を出た若者も戻ってきたくなるような魅力を持つコミュニティをつくりたいと考えました。山根社長も「地域に還元できる場にしたい」とおっしゃっていて、その思いがうまく重なり合い、形になったと振り返っています。


▲左から、リノベる 都市創造事業部 小谷彩華。リノベる 都市創造事業部本部長 西郷俊彦。


▲3,085㎡の建物に、カフェレストラン・バー・スポーツコート・トランポリンなどを備える複合施設。2021年にはグッドデザイン賞を受賞。取材時も多くのお客さまでにぎわっていた。


▲工場らしい無骨な天井や、床材に足場板材を使用したり、クレーンを残したりするなど、元鉄工所の特徴を引き継いだリノベーションを施した。


▲11時を過ぎると続々と人が集まった。車で来場される方も多い。

■家族連れから外国人選手まで。安心してくつろげる場所に

―オープンから5年を迎えました。様々な変化があったと思いますが、現状を教えてください。

村杉:オープン当時から、家族で訪れ、子どもたちはトランポリンやスポーツコートで遊び、大人はカフェで自分たちの時間を過ごしてもらう、そんな光景を理想としてきました。そのための場づくりは、ずっと続けてきています。

 また、ながとブルーエンジェルスの選手による、子ども向けタグラグビー教室や、本格的にスポーツに取り組む前の、小さな子どもたちに色々な動きを体験してもらうマルチスポーツ教室なども月2~3回開催しています。シーズン中は難しい時もありますが、長門市からスポーツ教室の開催依頼があったり、市内企業の新入社員に向けたチームビルディングの依頼などもあります。

 夏祭りを開催したこともありました。選手全員が運営に加わり、市内外から多くの人が来てくださって、SWEET ASの中でゲームや射的、屋台を楽しんでもらい、地域と一体となる時間をつくることができました。


▲入口すぐには誰でもレンタルして遊べる9台のトランポリンがある。この日は近くに住んでいるという親子と、親子3代で遊びにきた家族が遊んでいた。


▲写真の家族は、山口に住む祖父母の元に、お盆を使って遊びに来てくれたとのこと。SWEET ASには家族で何度か来ていて、家族が楽しめるいい場所だと話してくれた。

―この5年でレストラン・カフェ・バーもお客さまが定着してきたという話をお聞きしました。

村杉:SWEET ASは2020年9月10日にオープンしたのですが、直後のシルバーウィークには3日間で1000人近くが来場し、僕もキッチンやホールに立つほど大忙しでした。

 ところが長門市内でコロナ感染者が出ると、お客さまがぱったり来なくなってしまい、その頃がいちばん苦労しました。ただ、スペースが広いのでそれを逆手に取り、人数制限をしていますと告知して営業は続けました。

 レストランのメニューもオープン当初とは変わってきていて、和食メニューを加えたり、最近はお客さまの声からコース料理も提供しています。特にワイン好きの方に好評で、人気が出てきているようです。


▲取材時のランチタイムは予約がいっぱいで人気の様子が伺えた。食事も地場の食材を使用して丁寧に作っており、本格的で美味しいとファンも多いそう。

―チームの選手とSWEET ASの関わりはどうですか。当初、選手のセカンドキャリアにつながる体験をSWEET ASで作れるよう、選手が運営にも携わる話もありました。

村杉:長門市内で合宿をしたり、練習するときに全員で食事をしたり、打ち上げをするときはSWEET ASで行うようにしています。大人数を引き受けてくれる飲食店が長門市内になかなかないということもありますが、選手にとってSWEET ASが安心できる場所になっていることも大きいと思います。特に外国人の選手たちは本当にSWEET ASが好きですね。コーヒーを飲めるカフェも市内にそれほどありませんし、ここではニュージーランドスタイルでコーヒーを提供しているので、くつろげるのではないでしょうか。

 選手のセカンドキャリアという点では、選手たちは今も、マルチスポーツ教室や英会話教室の先生だったり、SWEET ASの裏方として様々なイベントを企画してくれていて、様々な経験ができる環境になっていると思います。

 日本代表経験もある辻崎選手は、オープン当初からプロジェクトマネージャーとして運営に関わってきました。リノベるさんの協力を仰ぎながらデザインを学んだり、レストランの食材の仕入れまで担当していました。また、子ども向けのマルチスポーツ教室にも先生として参加していましたが、運動が苦手だった4、5歳の生徒さんが、小学生になってラグビーを始めたり、あのスポーツ教室のおかげでスポーツが好きになったと教えてくれる子もいたりして。『SWEET ASでは「スポーツを通じてコミュニティをつくりたい」と考えていたので、スポーツ教室を通して成長や喜びを共有できる関係性がつくれていることがすごくうれしい』と話していました。

―メインスポンサーであるヤマネ鉄工建設の皆さんも利用されていますか。

村杉:山根社長はよくここでご飯を食べていますよ。社員の皆さんも部署ごとの会食などに使っていただいているようです。山根社長はよく、「飲食店で利益を上げるのはとても大変だけど、長門市にこうした施設があることの意味や価値のほうが大事だ」と話されています。また、児童養護施設の子どもたちを招いてご飯を食べてもらったり、スポーツコートで遊んでもらうといった取り組みも行っています。そうしたスポーツ文化的なものが長門に根づきつつあるのではないかと思っています。


▲壁を彩るのは、選手たちから贈られたユニフォーム。代表戦や世界大会に出場した際のもので、オープン当初は8枚ほどだったが、活躍の舞台が広がるたびにその数を増やしてきたそう。

■レストランウェディングにも挑戦

―オープン当初は想像していなかったような、嬉しい話などがあれば教えてください。

村杉:レストランでウェディングを行ったことですね。まったく想定していなかったことでしたが、ヤマネ鉄工建設の社員の娘さんが、「インテリアがかっこいいので、ここで式をあげたい」と言ってくださったんです。インテリアはリノベるさんにセレクトいただいたものでした。60~70人規模の式でしたが、地元のプランナーと連携し、スタッフの数も必要なだけかき集め、かなり苦労しましたが、実現できて嬉しかったです。結婚式はこの5年で2回経験させてもらいました。これまで、長門市内でできなかった、レストランウェディングができると喜ばれています。

 団体を受け入れるという点では、ある中学校の修学旅行の一環でSWEET ASを使ってもらったこともありました。チームの選手たちと一緒に何かをしたいということで、選手とタグラグビーをしたり、外国人選手と英語で交流したりしつつ、生徒たちに食事を提供しました。

 また、かつてこの鉄工所で働いていた年配の方がお客さまとして訪れ、「俺、ここで働いていたんだよ。だからすごく嬉しいよ」と声をかけていただいた時は、続けていてよかったなと思いましたね。


▲取材当日も30年ぶりだという高校の同窓会が行われていた。30名以上の団体が入れるレストランも市内にはあまり多くないため、ウェディング以外にも、同窓会やパーティーの需要もあるという。同窓会は久々の再会に、花が咲いたように盛り上がっていた。


▲インテリアはリノベるが担当した。写真は学校の体育館の床を再利用した椅子。空間とともにインテリアもスタイリングすることで、結婚式などおしゃれな雰囲気を演出できる場所として受け入れていただいている。

―逆に苦労している点や、難しい点などはありますか。

村杉:ボルダリング施設があるのですが、現時点では使用していないことですね。人気はあったものの、子どもが利用する際には必ずスタッフを1人付ける必要があり、採算を取るのが難しくなってしまいました。

 それから、これはオープン当初からの願いですが、個人的には高校生などの若い世代の方にも来てほしいと思っています。小さなお子さま連れの家族や、平日にパソコンを持ち込んで仕事をされる方、女性同士での利用も増えていますが、高校生の利用がないんです。東京だと、スターバックスで勉強する高校生をよく見ますが、長門ではそうしたカルチャーがないのか、敷居が高いと感じているのか、すぐ近くに高校はあるのですが、学校帰りに寄ってお茶していくという感じには至っていません。学生割引もやってみたりしたのですが…。


▲スポーツコートは20代の男性2名が予約していた。長門に実家があり、帰省のたびにSWEET ASで食事をしたり、スポーツコートでバスケットボールを楽しむそうだ。「家族もお気に入りの場所です」と教えてくれた。

■熱量をもち、地方都市だからこそできるリノベーションを

―村杉さんから、この5年のお話をうかがって、どんな印象をもちましたか。

小谷:レストランウェディングをされたことはとても嬉しく思いました。家具もこだわって選んで配置させていただいたので、それが功を奏したとおっしゃっていただいたことは嬉しい驚きでした。

高校生がいらっしゃらないというのはさみしいですが、オープン直後に伺ったとき、SWEET ASの前を通り過ぎる学生さんたちが「このお店、すごくかっこいい」と話してくれていたので、来ていただけるようになるといいなと思います。

 最近伺った時は、隣の萩市にお住まいの方が5~6歳のお子さんを連れていらっしゃっていて、「子どもを遊ばせながらコーヒーを飲む時間がすごく楽しい」と話されていました。そうやって親に連れられて足しげく通っていたお子さんたちが成長したときに、自ら通ってくれるようになるのではと長期的な希望も感じています。


▲トランポリンやキッズスペースなど、子どもも楽しめること、空間が広いため、大人数でも落ち着いて楽しめること、食事がおいしいことなどが、特に気に入っている声としてあがった。

西郷:これまでも試合のパブリックビューイングや英会話の教室を開催されていると伺ってきました。時間はかかるかもしれませんが、少しずつ若い方にもSWEET ASがなじんでいくのではないかと期待しています。

 村杉さんのお話にあった、昔働いていたご年配のお客さまが、こんな使い方をしてくれて嬉しいと言っていたというエピソードには感動しました。この場所を以前から使われていたヤマネ鉄工建設でしかできないこと、スポーツチームを持つ村杉さんたちが運営に関わることでしかできないことが実現されているんだろうと思います。

―リノベるとしては、このプロジェクトをどう捉えていますか?

西郷:SWEET ASは、山根社長や村杉さんたち関わる方の熱量が高く、これをやりたいということが明確に決まっていて、それを僕らがお手伝いさせていただいたプロジェクトでした。元鉄工所という場所が45年培ってきた、時間やスケール感、素材感や大きさなどが、まわりに安心感や居心地の良さを与えていくことをこのプロジェクトで実感することができたのは大きなことでした。

 こうした施設が東京ではなく、自然と一体になった長門のような場所にあるからこそ、スケールの大きさが感じられ、かっこいいのだと思いました。そこに可能性をすごく感じました。

村杉:リノベーションには僕も初めて関わりましたが、ラグビーのチーム作りに似ていると思いました。すべてを一からやり直すのではなく、昔のものをいろんなカルチャーを踏襲しながらまた別のものへと造り変えていくというのは、チーム作りと本当によく似ています。僕もすごく勉強になりましたし、いい経験をさせていただきました。

西郷:村杉さんとお会いした当時、僕ら都市創造事業部の一棟リノベーションの実績はそれほど多くありませんでした。特に地方都市での実績は少なくて、どんな体制を作っていけばよいか、色々と試行錯誤して案を出させていただきました。施工をヤマネ鉄工建設さんと、実施設計などを地元の設計事務所と組むことができて、このやり方を認めていただいたからこそできたことかなと思っていて、僕らにとっても大きな影響を受けたプロジェクトになりました。

 地方にこうした施設を造ることができた僕ら自身の手ごたえも大きく、社内のメンバーのモチベーションを高めることにもつながりました。社外からの反響も大きく、画期的なプロジェクトだったと振り返って思います。

小谷:村杉さんやヤマネ鉄工建設のような、地域で重ねてきた歴史と関わる人々の熱量が日本の地域をもっと楽しくすると思っています。そういったプロジェクトをこれからも進めていきたいです。


▲シェフの家族・親戚が集まり食事を囲んでいた。家族が集まり、笑顔が生まれる場所になっていた。


▲バーカウンター。ワインセラーも設置しており、本格的なニュージーランドワインやオリジナルカクテルなども楽しめる。


▲ライブキッチンになっており、外から様子を見ることもできる。


▲SWEET ASの毎日を支えるスタッフ。ほとんどがオープン当初から働いている。「最近は常連の方、隣の市から来てくださる方、団体のお客さまも増えて嬉しいです。結婚式があった時は感動しました。」とお話してくださった。丁寧な接客からも、この場所を愛してくださっていることが伝わってきた。

―SWEET ASは地域にどのような存在として定着しましたか。これから実現したいことを教えてください。

村杉:長門を離れて都会に出た人も、お盆などで帰省すると、「長門にこんな施設があるんだ、すごいね」と驚いて来てくれます。オープンから5年経ち、地域に当たり前の存在として受け入れてもらえている。それが一番ですね。

 今後は、これはオープン当初から考えていることですが、色々な国の人たちにSWEET ASへ関わりに来てもらいたいですね。スポットでいいので、スタッフとして働いて、長門に滞在してもらうイメージです。僕がニュージーランドのチームにいたとき、ニュージーランド、オーストラリア、フィジーにトンガ、ヨーロッパなどから来た人たちが、同じキッチンで働いていたりして、多様性の文化がそこにはありました。そこまではいかなくても、SWEET ASに行けば半年ほど働けるよ、というふうになっていけばいいですね。言葉の壁があって大変かもしれませんが、お互いによい影響があるのではないかと思っています。

 地方都市は保守的な面があり、たとえば海外のチームが僕らのチームと長門で試合をしたいと言ってくれても、彼らを受け入れるホテルがなかったりします。「外国人が大勢来るのはちょっと」と。そういうことは寂しいのですが、SWEET ASで外国の方とコミュニケーションする機会があるだけで、理解が進むこともあると思うんですよね。外国の方への意識を少しずつ変えていきたいという思いもあります。

―最後に、今後、リノベるは、様々なプロジェクトとどう向き合っていきたいですか?

西郷:リノベるでは、少しずつ運営に携わるプロジェクトが増えてきています。私たちのプロジェクトにとって本当に大事なことは、完成後どのように地域に根づき、愛される場所になっているかです。だからこそ、「造って終わり」ではなく、運営者や利用者との関わりを含めて、運営フェーズでの関わり方を模索し、施設がどう育っていくのかが大切だと思っています。SWEET ASは私たちにとって大切なベンチマークとなるプロジェクトです。これからも、建物のスケールや素材、歴史といったその場所の個性を活かし、運営する方や利用者と対話しながら、その場所にしかないものをつくり、「まちの新しい価値」になるということに向き合っていきたいです。

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