- 企業情報TOP
- コーポレートブログ〈パズル〉
- 【Vol.113】風土を取り込み、文化を醸す。オープンから5年、「BOIL」がまちに生んだものとは
【Vol.113】風土を取り込み、文化を醸す。オープンから5年、「BOIL」がまちに生んだものとは
リノベるが展開するオウンドメディア「パズル」。今回は、神奈川県川崎市高津区にある地域参加型の複合施設「BOIL(ボイル)」を取り上げます。
NTT東日本の電話回線加入や料金支払い窓口などとして長年地域の人々に利用されていた建物をコンバージョンし、複合施設に再生したプロジェクトです。人々の想いや地域発信の文化が「沸騰(BOIL)する」拠点となることを目指しました。リノベるは企画・設計・施工・運営マネジメントを担当し、溝の口で建築不動産業を手掛ける株式会社NENGO(以下 NENGO)に運営を委託しています。
3階建ての「BOIL」は、1階にダンススタジオ「BOIL studio」とビールのマイクロブルワリー「みぞのくち醸造所」、2階に自然素材由来の塗料「ポーターズペイント」のショールーム、3階にNTT東日本のサテライトオフィスがあります。2021年7月のオープンから5年を迎え、「BOIL」はどのように地域に浸透し、定着しているのでしょうか。
「BOIL」の事業責任者で、ダンススタジオ「BOIL studio」の運営も担当するNENGOの吉崎弘記(よしざき・ひろき)氏、「みぞのくち醸造所」を運営する株式会社ローカルダイニング代表の榊原浩二(さかきばら・こうじ)氏、NENGOが日本総代理店を務める「ポーターズペイント」のブランド統括マネージャーの山口円(やまぐち・まどか)氏、リノベる都市創造本部でBOILの当時のリノベーション企画・設計、また現在も運営マネジメントに携わる井上隆人(いのうえ・りゅうと)の4名に、これまでの変化と展望を聞きました。

【BOIL】ボイル|川崎・高津|コワーキング、シェアキッチン、ダンススタジオ
それぞれの挑戦からたどり着いた現在地
―BOILのオープンから5年が経ちました。今この場所はどんな賑わいを見せていますか?
榊原(みぞのくち醸造所):みぞのくち醸造所は2022年5月にオープンし、現在4年目です。クラフトビールと食事が楽しめるタップルームを併設しています。地域の方はもちろん、都内など遠方から来られる方、グローバルなお客さまも多いです。BOIL3階のオフィスで働いているビジネスパーソンの方もいれば、テラス席では犬を連れた方が立ち寄って一杯飲まれたり、ダンススタジオを利用した帰りに寄られる方も多くなりました。各テナントがばらばらに利用されるのではなく、BOILという一つの場所として交流が深まっているのが素晴らしいですよね。

▲みぞのくち醸造所内。左手にある醸造タンクを眺めながら、溝の口産のビールを楽しめる

▲タップルームで仕事終わりにクラフトビールを楽しむ方々

▲BOILのテーマカラーであるオレンジのポーターズペイントを塗った壁面。ダンススタジオに通う子どもの保護者からグローバルなお客さままで幅広く集う
最近は周年イベントで限定ビールの提供やDJパーティを開催したり、溝の口にゆかりのあるアーティストを招いてライブイベントを行ったりと、ビールを味わいながら音楽や溝の口のカルチャーを楽しめる場をつくれています。
NTT東日本が利用していた時代をよく知る高齢のお客さまが「あの建物がこんな場所になったんだね」と感慨深く話されることもあり、そんな時はとても嬉しいですね。

▲活躍するアーティストを招いて音楽ライブを開催。1階は人で溢れる大盛況となった
吉崎(NENGO/BOIL studio):ダンススタジオは「BOIL」のリーシングと運営を担うNENGOが手がけています。ダンススタジオは竣工時からの施設で5周年を迎えました。毎週クラスを開く定期利用も、仲間内で楽しむ方のスポット利用も増えています。子ども向けのブレイクダンスの教室も人気がありますね。また、プロダンスリーグ(Dリーグ)のチームやブレイクダンサーの方々も練習や撮影に利用されています。

▲この日は小学生向けのダンスクラスが開催されていた

▲2024年パリ五輪ブレイキン日本代表の選手陣も練習に使用していた
山口(NENGO/ポーターズペイント):2階にショールームをつくって2年になります。オーストラリア発祥の自然由来の素材の塗料「ポーターズペイント」の世界を体感できる空間となっていて、主なお客さまは設計・建築関係者です。ショールームは予約制で、打ち合わせでの利用が多いのですが、初めての方は「BOIL」の見た目と中身のギャップにまず驚かれるので、建物の歴史やNTT東日本が利用していた建物が複合施設になった理由などで話が膨らみます。ショールームだけでなく、BOILそのものの面白さに気づいていただける良いきっかけになっていると感じます。


この場には新しい出会いの場を生む「ミュージアム」の役割も持たせています。溝の口にゆかりのあるアーティストや写真家さんの作品を展示するギャラリーを開いたり、ダンスイベントに使っていただいたりと、地域の方にも開く場としました。
井上(リノベる):リノベるは現在「BOIL」の運営マネジメントとして関わっており、これまで住まいやリノベーションの魅力を伝えるイベントを開催してきました。各店舗の皆さまの協力もあり、地域の方も参加してくださっています。大人向けに開催した海洋プラスチックごみを使ったランプづくりのワークショップでは、みぞのくち醸造所のビールを楽しむ時間も持て、他の施設と連携できたのは意義深かったです。

―オープン当初の構想はどんなものでしたか。また、今をどのようにとらえていますか。
井上(リノベる):企画当時は「gro-cul(グローカル)」をコンセプトに掲げていました。「grow(成長)」と「culture(文化)」からの造語で、溝の口というまちが持つ文化性を包容する施設にしたいと考えたからです。NENGOさんとリノベるで議論を続ける中で、「沸騰させるような施設に」という話から「BOIL」の言葉が生まれ、施設名となりました。
公共性の高い建物をまちのために複合施設として利活用するというNTT東日本さんの決断がまず画期的であり、当時のリノベるにとっては築年数が大きく経過した建物を地域に開いた複合施設としてリノベーションすることは挑戦的な取り組みでした。NENGOさんもダンススタジオだけでなく、コワーキングスペースやシェアキッチン(※現在は閉設)も運営は初めてでしたよね。
吉崎(NENGO/BOIL studio):どれも挑戦的な取り組みではありましたね。ダンススタジオをつくったのは、もともと溝の口はブレイクダンスの聖地といわれ、縄跳びのダブルダッチを含めてダンサーが多いのに、このまちに練習できる場所がない状況を打破したかったからです。また、まちを知るプレイヤーとしての役割を期待されていましたから、まちでいちばんの飲食店を商うローカルダイニングの榊原さんにお声がけしました。地域を沸騰させよう、盛り上げようと奔走していた当時を思い出します。
榊原(みぞのくち醸造所):当初NENGOさんからはカフェをやってほしいと言われましたが、僕は「ビールだったらやります!」と答えたんですね。コロナ禍で、都内各地に展開していた店舗を、地域を絞って地元密着の店舗にする方向に舵を切るところでした。溝の口のカルチャーにも合うビールに着目し、クラフトビールをつくろうと場所を探していて、ちょうどいいタイミングでした。
井上(リノベる):それぞれのチャレンジが結びついて今の使われ方にたどり着いたわけですね。電話料金を払うために地域の方が足を運んでいた、そんな場所が持つ記憶の継承を当時の提案書にも織り込みましたが、先ほどの榊原さんの話から、それが現実に起きていることがわかってとても嬉しいです。

▲取材は2階のポーターズペイントのショールームにて行われた
多様な文化と人が集まる、溝の口の風土性
―どの施設でも溝の口というまちの個性や魅力を取り込もうとされているようですね。
榊原(みぞのくち醸造所):溝の口は宿場町としての歴史があるからか、実に様々な人がいてクロスカルチャーを感じる場所です。「みぞのくち醸造所」と名付けたのも、そうした風土の特徴が出せたらとの思いからでした。
山口(NENGO/ポーターズペイント):陶芸家で初の人間国宝となった濱田庄司の生誕地だったり、芸術家・岡本太郎も近隣で生まれたりと、溝の口は数多くの芸術家や文化とゆかりがある場所です。そのため、多彩で多岐にわたる活動をされている地域の方も多いです。せっかくまちに開いた「BOIL」にいるのだから、この場所で様々な価値や考えが交わるショールームにしたいと考えていたところ、地域のアーティストとのご縁ができて。面白い活動をされている写真家やアーティストの展示が行えるようになりました。

▲過去開催された写真展や展示、参加型アートイベントの様子。ギャラリーやフォトスタジオ、パフォーマンス用の場所としても活用できる
吉崎(NENGO/BOIL studio):「BOIL」に集まる施設はどこもこだわりが強く個性的ですが、そんな共通項があるのは、文化と芸術を育んできた溝の口という土地のDNAなのかもしれません。それぞれがうまくつながり、関係をクロスさせることができていると感じます。
―苦労もあった5年間だったと思いますが「やってきてよかった」と感じる、一番の手応えや嬉しかったことは何ですか?
吉崎(NENGO/BOIL studio):5年間を振り返って、最初はコロナ禍からのスタートで皆さん苦労されていましたが、やり続ける中で状況は年々確実に良くなっていると実感しています。BOILは、歴史を知る年配の方から、地元の方、ビジネスパーソン、ファミリー層、学生さん、そしてグローバルな方まで幅広い層が集まる場所になりました。各テナントにそれぞれ集まる人は違うんですが、お互いが不思議と影響し合っていて、「スタジオの帰りにビールを一杯」「醸造所へ寄った帰りにショールームの展示を見に行こう」など、今では多くの人がBOIL全体を使いこなしてくれるようになりました。
地域に根ざして活動を「やり続ける」ということ自体が、すごく大事なプラスになっているなと感じますね。まちや人の変化に何よりの楽しさを感じています。
みぞのくち醸造所の力は大きく、醸造所のコアな集客力が「BOIL」に浸透していくのを実感していたので、次はポーターズペイントが同様の力を持つことを期待しています。建築家や施工のプロ、地域のアーティストなどがこの空間をより多角的に使ってくれたら、さらに面白い交流が生まれるのではと楽しみです。
山口(NENGO/ポーターズペイント):昨年9月には、ショールームの空間を活かしてアートスペース「waku」も誕生しました。溝の口で数多くのプロジェクトやイベントを行っている方が携わってくれています。地域のネットワークを生かし、まちに開きながら新しいことができるようになってきているのは嬉しいですね。
榊原(みぞのくち醸造所):この4年で積み上げてきたものがしっかり形になってきていると感じます。ビール醸造の経験のないメンバーもいたため、こだわりのビール好きの方や同業者からはなかなか認められなかった。この4年間、品評会への出品やイベントへの出店を繰り返し、ビールの味わいも細かくブラッシュアップしてきました。その甲斐あって、韓国の国際ビールコンペティションKIBA(Korea International Beer Award 2024)Historical Beer部門での金賞受賞、JAPAN BREWERS CUPでの3年連続出店など、味も評判も良くなってきた手応えがあります。
なぜそれができたかといえば、タップルームがあることでお客さまの反応をじかに見聞きでき、フィードバックを集めやすいからです。お客さまに向けた開発を地道に積み重ねてきたから今があると思ってます。
井上(リノベる):リノベるは、建物が完成した後に深く関わる機会は多くはありません。しかし、運営マネジメントも担う「BOIL」では、NENGOさんと定例会議を行い、運営現場のリアルな声も共有いただいています。途中で2階のコワーキングスペースの運営をやめてポーターズペイントのショールームに変えるという決断をしたこともありました。ただ、NENGOさんと共にどんなテナントがこのまちやBOILに合っているのか、きちんと地域に根付く場所になるかを常に考えていたからこそ、みぞのくち醸造所さんやポーターズペイントさんのようなマッチング度の高い施設の入居が実現できたのだと考えています。
▲面影は残しつつ、テラスやガラス扉などで呼び込みやすい入口に
さらなるコミュニケーションを生む場所に
―これから新たに挑戦したいことはありますか。どんな施設にしていきたいでしょうか。
榊原(みぞのくち醸造所):もっとまちに開いた場所にしていきたいですね。テラスをうまく使えたらと考えていて、お客さまからもBBQをしたいとか、子どものイベントをしたいという声をいただきます。うちも含めて、「この建物では面白いことをやってるよね」という見方が定着すれば、ふらっと遊びに来る人が増え、関わる人も増えて、自然と面白さは膨らんでいくはずです。
山口(NENGO/ポーターズペイント):お客さまにどうやってこの場所を楽しんでいただくかを模索した2年間でしたが、BOILの良さと面白さをわかっていただき、人が人を呼ぶということも増えてきました。「BOIL」は、業態は違うもののいろいろな人の「好き」が集まる場所。これからはさらに、溝の口に関わる多様な方々やまちの魅力まで、イベントなどを通じて伝えていけたらと思っています。
吉崎(NENGO/BOIL studio):ダンススタジオの利用者がビールを飲んだり、ポーターズペイントのイベントに寄ったりと、思いがけない出会いを面白がって帰っていかれる。それこそが「BOIL」の魅力だと思います。地域での知名度も上がり、新しいお客さまも増えました。
ただ、この建物自体がまちの風景に溶け込みすぎていて、場所がわかりづらいと言われるのが課題です。逆に言えば、もっと知っていただける可能性があるととらえています。次の5年はその課題にチャレンジしていきます。
井上(リノベる):歴史ある建物に一歩入れば、今を感じられる空間が広がっている「BOIL」をさらにまちに開いた場所にできればいいですね。リノベる都市創造事業では「まちの新しい価値になる。」をコンセプトに掲げていますが、「まちに開く」ことができている部分もあり、でももっとできることもあると感じました。リノベるは、オーナーであるNTT東日本さんとのコミュニケーションを円滑に進めながら、プレイヤーのみなさんの希望や挑戦をバックアップできるよう、マネジメントを続けていきます。
