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【Vol.39】ラグビーが教えてくれた、本物のチームのつくり方―W杯代表を経験してリノベる山下が思うこと
ラグビーというスポーツからの影響を公言する経営者やビジネスパーソンが多いのはなぜでしょう。リノベる代表の山下もその一人。現在も企業経営のかたわらタッチラグビーをプレーしているのですが、実は40歳以上の日本代表に選出され、今年W杯にも出場を果たしています。山下自身、ラグビーで培った経験がリノベるの事業や組織づくりに強く影響していることを実感しているそう。詳しい話を、本人に語ってもらいました。
ラグビーで得た成功体験と、人生初めての挫折
改めて思い返すと、ビジネス歴よりラグビー歴のほうが長いんですよね。始めたのは中学の頃。友達から試合に出てくれと頼まれて。ボールに触ったことすらなかったのですが、足は誰より速かったので、まあなんとかなるだろうと。ところが、最初の試合でのキックオフ直後タックルを受け。何が起きたか分からないうちに仰向けに倒されていた。「え、なんで?」と。「こんなはずじゃない」と思ったのがスタートです。そこからラグビー一色。ポジションは左ウィングです。高校、大学と本気でプレーし、卒業後は某メーカーに就職して実業団に。自分の道はこれだと信じて疑わなかったし、トップの世界へ着実に近づいている実感しかなかった。でも、その手応えは一年目にして挫折に変わりました。同じポジションの外国人選手が、見たことないほどの大きな身体で、信じられないくらい速いんです。自分とのレベルの差に愕然とし、チームから逃げるように去りました。そのあとほどなくして住宅ビジネスの世界に足を踏み入れ、人生をかけるに足るリノベーションという世界に出会って今に至るわけですが、それでもラグビーに対する後悔の念は残ったままでした。
40代で出会った「タッチラグビー」という新たな世界
リノベーションの事業をやろうと決めてからは、ボールもスパイクも封印し、ラグビーとは距離を置いてきました。本気でやってきた自負があったからでしょうね。中途半端に趣味でやるつもりは一切ありませんでした。ところが、大阪から東京に住まいを移してしばらくたった40代を迎えた頃に「タッチラグビー」と出会います。タッチラグビーとは、簡単にいうとタックルのないラグビーです。タックルの代わりに、ボールを持った相手に触れる(タッチする)というルール。ラグビーに比べ安全で、子どもから大人まで男女問わず取り組みやすいスポーツです。僕の経歴をご存知だった経営者の先輩から「やってみない?」と声をかけていただき、ちょっとした付き合いのつもりで練習へ。いざやってみると、思っていたものとは180度違いました。「ラグビーの簡易版」「遊びのラグビー」とばかり思っていたらとんでもない。そこには、激しいスポーツの世界がありました。実はグローバルの競技人口はラグビーよりタッチのほうが断然多いんです。ラグビー経験者だからといって上手くプレーできるわけではないし、上を見れば、各国の代表がしのぎを削るW杯という舞台もある。タッチにはタッチの“登るべき高い山”があるんです。長年フタをしてきたラグビーへの後悔にケリをつけるタイミングは、今しかないかもしれない――。振り返ると、そんな思いもあったんでしょうね。リノベるの経営と両立し、タッチラグビーで頂上を目指してみようと、40代にして改めてアスリートの道への挑戦を決めました。
W杯メンバーとして世界3位に。ジャイアントキリングを実現したチームマネジメント
日本でもいくつかニュースになっていたのでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、2019年のマレーシアW杯、男子40歳以上の部で日本代表は銅メダルを獲得しました。実は僕も、その代表チームのメンバー。最後の試合となったフランス代表との3位決定戦、起死回生の同点トライを決めたのが僕です(笑)。
2年に及ぶ代表セレクションからW杯に向けた日本代表チームのトレーニングと、肉体的にも精神的にもかつてないほど自分を追い込みました。そのぶん、得られたものは大きかった。銅メダルという結果以上に、ビジネスの世界にも通じるさまざまな経験や気づきがありました。何より、僕自身の“チームマネジメント”に対する理解をより深めることができたと感じています。今回の日本代表の世界第3位という成果は、世界を驚かせる大番狂わせでした。M40クラスで優勝したニュージーランドを筆頭に世界ではタッチラグビーはメジャースポーツの一つ。3位を争ったフランスも強豪で、マイナー国の日本が勝利するとは予想だにされていませんでした。では、この勝利はまぐれだったのか。そうでないと思ってます。少なくとも日本チームは、自分たちの戦力を踏まえて当初から銅メダルを目標に設定し、そのための戦略と準備を徹底していました。ライバルに比べタッチ歴の短いメンバーが多い日本。戦術の幅をあえて狭め、その代わり限られた戦術におけるプレーの精度や連動性を徹底的に突き詰めました。チームの意思を一つにし、それぞれがコンマ数秒の間に適切な判断でアクションできるようになるまで繰り返す。最終的に僕は、プレー中に後ろを走る仲間が何を考えているのか、手に取るように分かるようになっていました。言葉やサインを必要としない意思疎通の感覚が、たしかな手応えとしてあるんです。この実感は、今後のリノベるの組織づくりにおいても、非常に大きな財産になるだろうと思っています。
本物のチームとは、極限状態を経て“生まれる”もの
この、本物のチームが生まれるプロセスこそ、僕がラグビーに惹かれる理由の一つなのかもしれません。普段の練習は、「楽しい」という表現が当てはまるようなものではないんです。練習では自分に納得のいくプレーができず苛立つことも多い。グランドの上では先輩も後輩も関係ありませんし、代表チームでもめちゃくちゃ怒鳴られました。ただそれは、本気だからです。極限に本気の関係性があって初めて、チームがチームとして機能するんです。そもそもラグビーはフルコンタクトのスポーツ。プレー中の事故のリスクは高く、だからこそその“極限に本気の状態”が得られやすいという特性もあると思う。感覚が研ぎ澄まされたなかで、仲間同士が本気で関わりあい、本物のチームになっていく。これがラグビーの魅力だと思うし、その魅力を体験として知っているからこそ、僕はリノベるという環境でもそんなチームのあり方を実現したいと思っています。リノベーションという世界に強く惹かれたのも、チームの強さが事業の強さに直結する分野だからなのかもしれません。リノベーションには“様々な能力をもったプロ”が不可欠。不動産、デザイン、金融、施工、資材、インテリア……。それぞれの関わり合いの中で、アウトプットの精度が全く変わりますからね。
再びラグビーと向き合うようになって、チームに思いを巡らす時間は明らかに増えました。W杯でのプレー中に仲間の心が読めたと言いましたが、リノベるで10年にわたって苦楽を共にしている取締役の大森とは、それに近い関係にありますね。彼のその日のコンディションは、ドアをノックする音だけで分かります。リノベるでは1on1の習慣を徹底したり、週次でフリーな議論の時間を設けるなどコミュニケーションに時間を割いていますが、それもその先にチームとしての成熟が見えているから。日本代表として感じた緊張感とワクワクを、リノベるのチームづくりにも感じられていることが、今はとても嬉しいですね。