ミニシアターのある街に暮らす。中央線沿いの映画館『ラピュタ阿佐ヶ谷』

ミニシアターのある街に暮らす。中央線沿いの映画館『ラピュタ阿佐ヶ谷』

多くの文化人に愛されてきた街・阿佐ヶ谷。駅の北口から歩いてすぐの場所に、どこか不思議な雰囲気を放っている建物があります。地元の人はもちろん多くの映画ファンを魅了している『ラピュタ阿佐ヶ谷』。今ではレンタルビデオでも借りることができないような、日本の古き名作が上映されているミニシアターです。今回若き女性支配人の石井紫(ゆかり)さんに、その魅力を伺いました。

ラピュタ阿佐ヶ谷とは

日本映画の巨匠たちの作品を上映し続ける場所

1998年11月にオープンし、今年で19年目を迎える『ラピュタ阿佐ヶ谷』。地下1階には小劇場『ザムザ阿佐谷』、2階にミニシアター『ラピュタ阿佐ヶ谷』、そして3階と4階にはレストラン『山猫軒』を備えた文化複合施設です。

オープン当初はアニメーション専門館としてスタートしたそうですが、同時期に池袋の『文芸坐』や銀座の『並木座』など、都内の名画座が相次いで閉館。館長である才谷遼さんは「日本映画の巨匠、名匠たちの作品を上映する場所がないというのは、“文化都市・東京”としていかがなものか」という想いに駆られ、アニメーション中心のラインナップに名画を加えていったといいます。

秘密基地のような、不思議な建物をめぐる

空飛ぶ島「ラピュータ」をイメージした設計

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『ラピュタ阿佐ヶ谷』は、ガリバー旅行記に出てくる空飛ぶ島「ラピュータ」をイメージして設計されたといいます。その佇まいは、住宅地の中で異彩を放つよう。随所にこだわりを感じられる外観や内装も、ラピュタ阿佐ヶ谷の魅力のひとつです。

緑あふれるエントランス

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入り口には、繁華街からすぐとは思えないほどの緑あふれる空間が。「できるだけ自然の風合いを残したい」という、館長の願いが込められているのだそう。

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建物に向かって右手にはあじさい、左手には色とりどりの短冊が飾られた笹が植えられており、夏を感じることができます。短冊のひとつに「心に残る映画を撮れますように」と名画座らしい願いが書かれていたのが、とても印象的でした。

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先に進むと、たくさんの金魚が放たれている池があります。木漏れ日を受けながら、すいすいと泳ぐ姿が気持ちよさそうです。

昭和気分を味わえる、雰囲気抜群のロビー

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ロビーでは、立派な木を使ったテーブルと椅子が迎え入れてくれます。創業当時から、映画を楽しむお客様の憩いの場として大切にされているそうです。

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奥には、映画の関連書籍やブロマイドが並べられたギャラリーが広がります。壁には名画のポスター、ラジカセからは昭和歌謡が流れており、雰囲気抜群。昭和の時代にタイムスリップしたような空間で、鑑賞前に気分を盛り上げてみてはいかがでしょうか。

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上映ホールに向かう階段に使われているのは、なんと「電車の枕木」。黄色いペンキは当時の名残だといいます。一つひとつのインテリアが、「名画の世界」という非日常的な空間を演出し、ラピュタ阿佐ヶ谷の世界観を織りなしているように感じられました。

隠れた名作に触れるひととき

大型映画館では味わえない「48席だけ」の贅沢

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石造りの壁や木の床でできたノスタルジックな上映ホールには、48席のシートが設けられています。背もたれが高く、ゆったりと座れるシートで過ごす時間は、なんとも贅沢。長編の名画も心地よく堪能できそうです。

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シートの裏手には大きな映写窓が見えます。

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上映後、映写技師さんが映写機をメンテナンスしている姿は、普通の映画館ではなかなか見ることができない趣のある風景。上映後に、しばらく映写窓を覗いていくお客様もいるそうです。

名画の余韻に浸れる場所づくり

地元民の憩いの場としても愛される

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映画を楽しんだ後は、名画の余韻に浸りながらロビー奥のフリースペースでほっとひと息。コーヒーと紅茶が200円で提供されており、地元の方がふらっとお茶を飲みに来ることもあるそうです。

ちょっと特別な日は『山猫軒』でフレンチを楽しんで

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3階と4階にあるレストラン『山猫軒』では、有機野菜をふんだんに使ったフレンチベースのランチやディナーを楽しむことができます。取材に伺った日は平日でしたが、ランチタイムは多くのお客様で賑わっていました。

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たくさんの光が差し込むテラス席は、これからの季節、とても気持ちがよさそうです。

 

山猫軒

【営業時間】ランチタイム 11:30~15:00(ラストオーダー14:00)ディナータイム 18:00~22:30(ラストオーダー21:00)
【定休日】毎週月曜日および毎月第1・第3火曜日

『ラピュタ阿佐ヶ谷』のスタイルをつくった、女性支配人

日本の名画を1本観たら、すっかり魅了された

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今回案内をしてくださった支配人・石井さんが映画の選定を任されるようになったのは10年前、27歳のとき。当時はまだアニメ・邦画・洋画とバラエティ豊かなラインナップが上映されていたそうです。

「私は日本の名画とは縁遠く、どちらかといえば渋谷のミニシアターで上映されているような洋画が好きだったんです。しかし日本の名画を1本観たら、どっぷりハマってしまいました」

すっかり魅了された石井さんは、勉強のためにしばらく日本の名画だけのラインナップにさせてほしいと提案。日本の名画だけを上映するという現在の『ラピュタ阿佐ヶ谷』のスタイルを確立していったといいます。

お客様とともに鑑賞して、生の声を肌で感じる

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上映されている日本の名画より、後の世代に生まれた石井さん。どのようにして上映する作品を選んでいるのか、訊ねてみました。

「何度観た映画でも、仕事終わりや休みの日を利用して、ここの上映ホールでお客様とともに鑑賞するんです。そうすると何が好評なのかが肌でわかる。この映画が好評なら、こっちの作品もいけるかな? といったように、生の声を次の作品選びにつなげています」

お客様の生の声を自分の肌で感じて活かす。多くの人に愛されるラピュタ阿佐ヶ谷を陰で支えるのは、若き女性支配人の映画に対する真摯な姿勢でした。

現在では、主に1950-80年代の邦画が上映されているそうです。

「名画ファンの方はもちろん、古い作品に触れる機会のない若い世代の方にもぜひ観にきてほしいです」

はにかみながら語る石井さんの笑顔は、日本の名画にあふれるエネルギーをいっぱいに浴びているようでした。

ミニシアターのある街に暮らすしあわせ

敷居の高い名画座イメージから一転、ラピュタ阿佐ヶ谷には、レトロな雰囲気のインテリアをはじめ、親しみやすい空気感が漂っていました。家ではぼんやりとテレビを眺めたり、ネットサーフィンをしながら過ごす人も多い現代。

「今日は仕事帰りにふらっと名画を観て帰ろう」

ミニシアターのある街に暮らしたら、そんな夜の過ごし方もできそうです。日本の名画に触れることができるラピュタ阿佐ヶ谷、ぜひ訪れてみてください。

 

ラピュタ阿佐ヶ谷

【住所】東京都杉並区阿佐谷北2-12-21
【公式サイト】http://www.laputa-jp.com/annai/index.htm

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